世界を相手とする貿易には様々な形態があり、その中の一つに加工貿易があります。自社で加工貿易を導入すべきか、他の貿易形態との明確な違いはなにか、などの疑問点をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、日本初のデジタルフォワーダーであるShippioが加工貿易にはどのようなメリットがあるのか、直面する課題や自社にとってベストな貿易形態の選び方を詳しく解説しています。
加工貿易とは海外から原料・材料・半製品を輸入し、これを自国内で加工してできた製品や半製品を、海外へ輸出する貿易形態のことです。英語では、”added-profit trade"" 字の如く加工で付加価値をつけた貿易です。
貿易とは他国の取引相手と商品の売買を行う仕組みのことですが、国内から送る取引を輸出、諸外国から自国に入れる取引を輸入といいます。日本は中国、アメリカ、ドイツに次ぐ世界第4位の貿易大国です。資源がとぼしい日本は、原油・液化天然ガスなどエネルギー資源や工業原料などの大部分を海外から輸入して、それらを加工して家電・自動車・電子部品などの製品として、海外へ輸出する加工貿易を強みとして経済成長を遂げてきました。
日本も加わる世界貿易機構(WTO)には164ヶ国が加盟し、国内外の経済動向や産業構造の変化などによって、取り引きされる品目、規模、ルール、関税など目まぐるしい変遷がもたらされ、その過程においてさまざまな種類の貿易形態が生まれました。
貿易形態はさまざまありますが、代表的な例として直接貿易・間接貿易、仲介貿易・加工貿易の4つを紹介します。それぞれの貿易形態の特徴や注意点について解説します。
1つ目に紹介するのは直接貿易です。言葉の通り、売り手(輸出者)と買い手(輸入者)が直接取引する形態です。直接取引のメリットは、間に仲介者が入らずマージンの支払が不要であり、双方で直接交渉できるため、商品内容、価格、契約締結までのスピードなど納得できる取引が期待できることです。一方で売り手(輸出者)は自ら買い手(輸入先)を見つける必要があり、商品の品質保証や輸送手配、為替変動のリスクなどを自社で負う必要があります。
2つ目の間接貿易は、いわゆる商社や流通業者などの仲介業者を通して取引する形態です。商社は、貿易に関して豊富な経験や情報を持っているので、その蓄積されたノウハウやネットワークで海外の新規取引先開拓を進めてもらえることが、間接取引の最大メリットです、また輸出手続きやトラブル対応など商社に肩代わりしてもらうことで手間やリスクを省くこともできます。一方で直接交渉できない分、取引条件で不満が残ったり、中間マージン分のコストにより価格競争力が弱まるというデメリットはあります。
3つ目は仲介貿易(三国間貿易)です。外国の輸出者と外国の輸入者の貿易をその両国以外の第三者が仲介する取引形態です。例えば日本の業者が、アメリカ・ベトナム間の貿易取引を仲介するようなケースが仲介貿易にあたります。仲介貿易の売買契約は、輸出者・輸入者ともに仲介業者と結びますが、商品は輸出者から輸入者へダイレクトに輸送されます。仲介貿易のメリットは、輸出者にとっては貿易交渉や販売の促進、代金の回収を安心して任せられることです。輸入者にとっては貿易交渉や貨物輸送コスト・税金・為替リスク回避などです。仲介者のメリットは輸入者からのマージンです。
日本に本社があって世界各国に子会社がある会社では、日本本社が子会社の取引を第三者として仲介し、子会社間でダイレクト輸送する取引が結構見られます。一種の社内取引ですが、これも仲介貿易の一つであり、三国間貿易とも呼ばれます。
4つ目は今回取り上げた加工貿易です。一般的な貿易では取引する商品について対価を支払いますが、加工貿易では加工や組立に要する分について対価を支払います。加工貿易のメリットは加工のプロセスが追加されている分だけ付加価値が高まること、安価な加工費に加えて助成金・免税など優遇措置を期待できる可能性があることです。注意する点として、皮など一定の材料を使用する加工貿易を行うためには、事前に経済産業大臣の承認が必要なことです。材料の輸出通関を行う前までに「委託加工貿易契約による輸出承認申請書」を提出し承認を受けなくてはいけません。
加工貿易には順委託加工貿易と逆委託加工貿易の2種類があり、次章で詳細及びそれぞれのメリットを解説します。
加工貿易は准委託加工貿易と逆委託加工貿易の2種類に分類できます。
それぞれの仕組みや違い、メリットについて解説します。
順委託加工貿易とは、国外から材料を輸入し、その材料を使用して国内で加工・組立した製品を海外へ輸出する形態です。
日本には資源が少なかったため、初期の頃はこの形態が主流でした。順委託加工貿易のメリットは、付加価値を高めることで利益確保をしやすいこと、最終製品の行き先として輸出に重点をおいた構造のため国内経済の変動に左右されにくいこと、大きな資本力と技術力を有しながら経済基盤の脆弱な国において基幹産業となりうることなどです。代表的な成功事例は家電や自動車であり、過去には大きな利益を得てきました。しかし近年は中国や韓国などアジア各国の工業力が上がり、日本よりも低コスト生産できることから、家電などの順委託加工貿易は減少しています。 現在は後述の逆委託加工貿易に移っています。
逆委託加工貿易は、順委託加工貿易の逆であり、材料を国外に輸出し、海外で加工・組立を行い、できあがった製品を国内へ輸入する形態です。 図で確認下さい。
逆委託加工貿易のメリットは、労働賃金が安価な発展途上国で加工することで、国内生産よりも安く商品を作れること、加工組立を行う工場を保税地域におくことで原材料にかかる税金を抑えること、国によっては政府助成金や減免税など優遇税制を期待できることです。 ただ各国の税制は複雑で異なることや後述する経済連携協定適用可否などもあるため詳細は税関や通関業者などに事前確認することが必須です。
日本における逆委託加工貿易は、急速な円高による国際価格競争力低下から製造コストを低く抑えようとしたこと、加えて米国との貿易摩擦で日本からの輸出を抑えざるを得なくなったことなどが重なり、多くの企業が隣国の中国を相手国として工場を建設し、生産移管したことが始まりです。
しかし中国経済の成長による加工賃高騰及びカントリーリスク分散もあり、相手国はタイやベトナムといったASEANへ移行、更には後発開発途上国とされるカンボジアやバングラデシュなどを相手国とする企業も増え、China+1の動きが目立っています。しかし一方で米中経済摩擦を起因とした半導体などの部品不足に加え、2020年以降は新型コロナ禍影響による工場稼働停止や港湾機能低下、海上コンテナ船滞留遅延などサプライチェーン混乱が継続しており、国際輸送を伴う加工貿易は新たな局面を迎えているといえます。
日本はグローバル競争を勝ち抜くために逆委託加工貿易へ移行し、海外生産比率(輸出金額に占める海外生産の比率)は1980年の5%から2020年の25%までアップしました。これは海外生産移転により国内の工場が減り、培ってきた技術力が維持できない、いわゆる産業の空洞化という負の側面をもたらしました。
しかし日本は資源が少ないという変わらぬ現実を直視すれば、貿易、特に加工貿易を抜きにした未来はありえません。
現在、日本政府は海外企業の誘致を”Invest Japan”として積極的に推進しており、日本国内企業ものづくり活性化とあわせてJapan ブランド製品あるいはJapanブランドサービスとして完成させ、海外へ再輸出する取り組みを後押ししています。
またTPPをはじめとした経済連携協定は生産拠点の再編や多拠点化、そして加工貿易の拡大においては力強い追い風となります。中国やASEAN諸国などを超える、新しい技術、新しいサービス、付加価値のあるものづくりをベースに、サプライチェーンの多元化とパートナー国などとの自由貿易圏をフル活用した「新たな加工貿易形態」を造りあげ、事業成長を目指しては如何でしょうか。
関連サイト 官邸ユーチューブ”Invest Japan"
INVEST JAPAN Home Page - Cabinet Office Home Page (invest-japan.go.jp)
世界を相手とする貿易には様々な形態があり、それぞれ特徴があります。また貿易規制などは、国毎にも異なり、日々変化しています。目まぐるしい環境変化のなか、加工貿易においても新たな領域・取り組みが生まれるなか、自社の貿易を見直しては如何でしょうか。
本記事で紹介した加工貿易の知識を踏まえ、今後サプライチェーンの複線化や生産拠点の移転などを検討する一助にして頂けましたら幸いです。