本記事では、L/C(信用状)についてご紹介します。L/Cを利用した貿易では、オリジナルB/Lが必要不可欠です。しかし、その手続きの煩雑さや船の高速化により、近年ではオリジナルB/LやL/C決済の利用が減少しているのが現状です。
一方で、現在はブロックチェーン技術を利用したL/C決済の実証実験が世界中で行われており、オリジナルB/LやL/C決済の有用性が再評価されつつあります。こうした背景を踏まえ、リスク回避の手段としてL/C決済の手順をしっかり理解しておくことが重要です。
※B/Lについては、「貿易で必須なB/L(Bill of Lading)ってなに?言葉の定義やB/L発行のタイミングを解説」をご覧ください。
L/C(Letter of Credit)とは、日本語で「信用状」と呼ばれる国際取引の際に利用される決済手段です。特に船舶を利用した国際輸送において多く使用されています。船舶輸送では時間がかかるため、商品の受け取りと代金の支払いを同時に行うことが難しく、輸出者や輸入者のいずれかにリスクが生じます。
例えば、商品を受け取る前に代金を支払う「前払い」では、輸入者が商品を受け取れないリスクを負い、代金を受け取る前に商品を発送する「後払い」では輸出者が代金を回収できないリスクを抱えます。
こうしたリスクを解消するために利用されるのがL/Cです。L/Cを使った取引では、輸出者と輸入者の間を銀行が仲介することで、双方のリスクを軽減します。L/Cは輸入者の取引銀行が発行する保証状で、輸出者が信用状条件を満たす書類を提出することで、銀行が輸入者に代わって輸出者に代金を支払うことを保証します。
この仕組みにより、信頼関係が薄い取引相手であっても、輸出者は代金回収が保証され、輸入者は確実に商品を受け取ることができるというメリットがあります。
L/Cを利用する手順は、以下の2つの段階に分かれます。
輸入者は売買契約を結んだ後、取引銀行に輸出者宛てのL/C発行を依頼します。
銀行(開設銀行)は輸入者の依頼内容に基づいてL/Cを発行します。
発行されたL/Cは、輸出地の通知銀行を通じて輸出者に通知されます。
L/Cの取引では、以下の点に注意が必要です。
ここでは、輸送から決済までの手順を3つの段階に分けてご紹介します。
輸出者はL/Cの条件に沿って、船積みの準備を進め、フォワーダーに輸送手配を依頼します。
税関で輸出許可が下りた後、貨物の船積みが行われます。
船積みが完了すると、船会社がB/Lを発行し、フォワーダーを介して輸出者が受け取ります。
B/Lを受け取った輸出者は、銀行にB/Lを提示し、為替手形を発行(振出し)します。この為替手形にB/Lや他の必要書類(船積書類)を添付したものが「荷為替手形」と呼ばれるものです。
通知銀行は輸出者から受け取った荷為替手形を輸入者の銀行(開設銀行)へ送ります。
開設銀行は輸入者から代金を受け取り、輸入者に船積書類を引き渡します。この書類には、B/Lなど貨物請求権が含まれています。この時点で、輸入者が貨物の所有者となります。
輸入者は、銀行から受け取った船積書類をフォワーダーに渡し、輸入手続きを依頼します。
フォワーダーは船会社にB/Lを提示し、貨物を引き取ります。
フォワーダーが輸入者の元へ貨物を届け、L/C決済を利用した貿易プロセスが完了します。
国際貿易において、L/C(信用状)を使用しない決済方法は、大きく以下の2つに分類されます。
この方法には以下の2種類があります。
輸入者が代金を支払うことで船積書類を受け取る仕組み
輸入者が手形期日までに支払いを行うことを条件に、船積書類を受け取る仕組み
D/P決済は即時支払いが条件であるため、輸出者にとってリスクが低く、輸入者には即金での支払い能力が求められます。D/A決済は、輸入者が手形の支払期日までに支払えばよいため柔軟性がありますが、輸出者にとって未回収リスクが伴います。
銀行為替を利用した送金方法には、以下の3種類があります。
電信を用いて送金指示を行う方法で、迅速かつ手続きが簡単
郵便を用いて送金指示を行う方法で、T/Tより時間がかかるものの、手数料が比較的低いのが特徴
銀行が発行する小切手を利用する方法で、小切手を受け取った輸出者が現金化することで代金を受け取る
T/Tはそのスピードと利便性の高さから、現在では最も主流となっている送金方法です。一方で、M/TはT/Tと比較してコストを抑えられるものの、送金に時間がかかるため、取引のスピードが重視されない場合に限り利用されます。また、D/Dは物理的な小切手を伴う送金方法であり、取引相手との距離や状況によって適宜利用される手段です。
ただし、これらの方法では、輸入者が支払いを行わないリスクを完全に排除することはできません。そのため、初回の取引においては、前金の設定や後払いの一部を担保として確保するなど、リスク管理を徹底することが求められます。
L/C(信用状)を中心とした貿易金融の分野では、一時期、ブロックチェーン技術の導入が大きな注目を集めました。そのメリットとして、書類のやり取りにかかる時間を大幅に短縮できる点が挙げられます。また、複数の関係者がリアルタイムで同じデータを共有できるため、情報の可視化が高まり、誤解やトラブルを減らす効果も期待されています。
こうした技術の応用は2016年頃から始まり、世界各地で実証実験や商業利用に向けた取り組みが行われてきました。
2018年5月、イギリスの大手銀行HSBCは、ブロックチェーンを活用したL/Cの商業利用可能な処理に成功しました。このニュースは、当時貿易金融分野におけるブロックチェーンの可能性を示すものとして注目されました。
その後も、中国では「ベイエリア貿易金融ブロックチェーンプラットフォーム」の導入や、中国銀行協会による貿易金融プラットフォームの発表など、積極的な取り組みが続けられています。香港では「eTrade Connect」が政府主導で開発され、主要な金融機関との連携が進められてきました。
日本でも、デジタル技術を活用した貿易金融の実験や研究が行われてきました。2016年頃から、複数の金融機関やテクノロジー企業、商社、船会社、保険会社などが共同で実証実験を開始し、貿易情報連携の効率化や書類の電子化を目指す取り組みが進められてきました。これらの取り組みは、貿易プロセスの標準化や業務効率化に向けた重要なステップとされています。
現在もブロックチェーン技術を活用した取り組みは続けられていますが、普及には慎重な検討が求められています。技術の有用性が認められる一方で、実際の業務への導入にはコストや拡張性、標準化の課題が依然として存在するためです。
他にも、AI等を先進技術を活用したプラットフォームの整備・拡大に向けた取り組みが進められており、申請業務の自動化やデータ連携の高度化も検討されています。特に通関・書類審査の効率化やデータの正確性向上、リスク管理の高度化といった分野での応用が期待されています。
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