40拠点に広がるデータドリブンな貿易DX──アイシンがShippioと切り拓く次世代サプライチェーン
自動車部品業界のグローバルサプライヤーである株式会社アイシン。同社はサプライチェーン全体の変革を目指す「物流DX(DX-L)」活動の中核に、国際物流の可視化を据えている。2021年から続くこの壮大なプロジェクトは、単なるExcel業務の置き換えではなく、「2030年物流コスト半減」という挑戦的な目標を掲げる。
なぜ彼らは、部分最適に留まらずサプライチェーン全体の「スルー可視化」にこだわるのか。その実現にShippioはどのような役割を果たしているのか。2025年7月に名古屋で開催された「貿易DXイノベーターズサミット」にて、その背景と展望を聴いた。
Profile
株式会社アイシン 生産企画部 物流革新室 物流技術グループ
グループ長 吉村 雄也氏
主任 大塚 詩織氏
担当 冨田 雅人氏
行動ログデータを活用した「見えない」物流からの脱却
―物流革新室のミッションと、課題背景について教えてください
吉村氏: 私が所属する物流革新室は、その名の通り「物流を革新する」ことをミッションとしています。2021年から、全社横断で物流DX(DX-L)の活動を開始し、国際・国内を含むサプライチェーン全体の一貫したモノの行動ログ可視化を構想。生産の世界では当たり前の「計画」と「実績」の進捗管理が、物流の世界ではあまりできていない、という大きな課題認識がありました。なぜ遅れたのか、なぜそうなったのかが論理的に説明できず、結果として属人的な業務に基づく勘や経験に頼った判断になってしまう。この状況を根本から変えようというのがスタート地点です。
大塚氏: 私も長年、主に輸出業務の手配を担当してきましたがExcelを使った属人的な管理の限界を感じていました。船の動静を管理するために各拠点で担当者がExcelに情報を転記し、それをメールで共有する…という作業を繰り返していたのです。
これでは「自分たちの貨物が今どこにあるのか」をリアルタイムで把握するのは困難です。日本からのリードタイム設定も、過去の経験則に頼らざるを得ない状況でした。

―こうした課題のある中、どのような構想でDX-Lを進めていかれたのでしょうか。
吉村氏: 構想はシンプルで、部品の仕入先様から弊社の工場、そして海外の最終納品先まで一連の流れを「スルーで可視化」することです。
その中には当然、トラック輸送もあれば、国際輸送の船も含まれます。これらの行動ログ(リアルタイムな現在の状況を示す動的データ)をデータで収集し弊社のIoTプラットフォームに集約し、可視化・活用していく。これが我々の取り組んでいることです。

我々が本腰を入れて可視化に取り組むきっかけとしては、半導体不足とコロナ禍がありました。船のオペレーションが世界的に混乱し「何がどこにあるのか全くわからない」という状態に陥ったのです。行動ログ、貨物の状況を可視化することの重要性を感じ、外部ソリューションの導入を検討し始めました。
―「Shippio Cargo」を選定された決め手は何だったのでしょう。
吉村氏: 複数のサービスを比較しました。具体的には、同じコンテナ情報でShippioと他ツールで同時にトラッキングし、その精度を比較しました。単なるExcel作業の効率化ではなく、行動ログの活用を目指しているため、選定基準として精度は重要視していました。結果、Shippioが我々の求める精度を満たしていることが分かり、サプライチェーンの国際物流における重要なピースを担っていただけると判断しました。
Shippioは「部分最適」ではなく「全体最適」の重要なピース
―Shippio導入において苦労された点、工夫された点はありますか?
大塚氏: 正直、最初のハードルは高かったです。特に役員層からは「船の動静データは本当に必要なのか」「Excelで管理できているじゃないか」という声がありました。単に「船の動きが見えます」という部分的な効率化だけでは投資対効果を理解してもらえなかったのです。
そこで、Shippioから得られる動静データと、社内の在庫データを組み合わせることで「スルーで可視化」が実現できることを示しました。Shippioは単なる船の動静把握ツールではなく、サプライチェーン全体の可視化とDXを進める上で不可欠なピースという「全体最適」という点が承認の「肝」でしたね。
冨田氏:また当社では月間1200件ほどの案件をShippioで管理していますが、そうするとデータの整合性チェックやトラッキングエラーがでていないかを確認しているところが大変だが日々Shippioとやりとりしながら改善してもらい進めています。
「データ活用」のその先へ。見据えるのはコスト半減と次世代サプライチェーン
―Shippioをどのように活用されていますか?導入の成果について教えてください。
冨田氏:Shippioで得られた船の行動ログデータと、自社の在庫データを組み合わせることで製品単位での可視化が進み、これまで見えなかった計画実績の可視化を自社で実現できるようになったことが一番の成果だと考えています。これは可視化の大きな一歩だったと感じています。さらに、2025年度中には、この「スルーで可視化」の仕組みをアイシンのグローバル約40拠点に展開していく計画です。

―最後に、今後の展望とShippioへの期待をお聞かせください。
吉村氏:我々は国際物流だけでなくサプライチェーン全体の可視化を推進しており、これが実現すると、国内・国際物流の様々な最適化や行動ログデータが揃ってくることでシミュレーションも可能になります。この「Cyber/ Physical Information Factory®」というコンセプトのもと、2030年までに物流コストを半減させるというチャレンジングな目標を掲げています。

出典:アイシンが未来を変える デジタルトランスフォーメーション(DX)戦略
この取り組みを推進することで、計画に対する物流の進捗のリアルタイムな把握、リードタイムの短縮、在庫の最適化、さらには不具合発生時においても迅速なトレーサビリティ確保などを実現していきたいと思っています。
国内では自社開発のトラック動態管理、海外ではWMSなど様々なシステムからデータを集めていますが、国際輸送における船の動態データは我々自身では持っていません。
そこを担うShippioさんは、我々のグローバル40拠点のサプライチェーンを支える重要なピースであり、欠けると全てが機能しなくなってしまいますので、引き続き強力なサポートをお願いしたいです。
将来的には「DX-L」を通じアイシングループ内だけでなく、お取引先様や輸送業者様も含めたデータを連携させ業界の垣根を越えた「次世代のサプライチェーン」を構築していきたいと考えています。
Shippioでは国際物流の可視化を実現し、情報共有機能や、貿易書類・請求書管理、納期調整を一元管理できるクラウドサービスを提供し、貿易業務の可視化・効率化をサポートしております。
貿易業務で人手が不足している、現状のやり方ではDXが進まないなどのお悩みがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

