サプライチェーンの課題と必要なこと

2021.02.04

1. なぜ今サプライチェーンを見直すのか

新型コロナウイルスの感染拡大は我々の生活のあり方を大きく変え、人が移動せずモノがより活発に移動する時代になりました。ECサービスの発達と普及、消費者のITリテラシー向上に伴い、様々なモノが簡単に手に入るようになりました。モノの移動はサプライチェーンが支えています。そして、そのサプライチェーンを支える日本の貿易・物流の仕組みは、労働集約的、且つ属人的な構造によって成り立っている側面が強いです。現場の貿易・物流事業者たちが日々奮闘し、コロナ禍においても商流や物流の維持に努めているが、それは人の稼働量に大きく依存した脆い仕組みです。

特にコロナ禍において、感染拡大を防ぐべく、人の密状態や移動が制限されると工場、倉庫、ターミナル、オフィスなどの稼働が著しく低下し、供給・調達・生産・物流・流通が滞る事態に直面しています。この様な状況下、輸出入者及び物流事業者は、より安定的で柔軟性の高いサプライチェーン構築を目指し、あるべき姿や戦略を再度見直す必要があります。そのためにデジタルトランスフォーメーションを念頭に、抜本的にサプライチェーンのあり方を見直す必要があると考えます。

 

2. 何が課題なのか

日本のサプライチェーンはいくつもの課題を抱えており、課題解決は急務です。

 

①特に若年層の人材不足:

例えばサプライチェーンを支える物流業界は、人手不足であるとよく言われますが、増加する物流需要の一方で、特に若年人材の確保に苦戦していることが原因です。ECサービスの発達と普及に伴い、国際・国内貨物の数量増、小型化も進みトランザクションの数量は増加しています。加えて、配送先に個人宅が増加したことにより、トラックへの積載の調整、ルートの調整の複雑化、受取人不在に伴う再配達の必要性など、配送効率が低下したことにより、仕事量自体も増えています。恒常的な労働力確保が期待されるが、特に若者にとって物流業界は、魅力的な業界に見えていないこともあり、人材確保に苦戦しています。長時間の肉体労働、給料が安く、旧態依然とした古い業界などというネガティブなイメージが先行しており、若い労働力が十分に確保できず、業界の平均年齢は高齢化傾向にあり、新しいサービスが生まれにくい業界風土に陥っている可能性もあります。

 

②カスタマイズされたサプライチェーン:

日本のサプライチェーンは、カスタマイズを念頭にした設計思想が強く、コモディティーとも言える物流サービスの差別化として、個社に合わせる形でサービスを展開・提案してきました。一昔前のIT業界の受託ソフトウェア開発であるSlerに近い世界観で、荷主の個別ニーズに合わせてサプライチェーン設計をしてきました。個別カスタマイズされたサービスは、例えばコロナ禍において調達先の急な変更、急な生産量調整、サプライチェーン組み替えなどの柔軟性に課題があったり、その提携先の荷主にしか適合しないケースが多く、他社への横展開が難しく、スケールしにくい点が課題です。各事業者間の商流や物流の一部は、電子化等を通じた部分的な効率化が図られてきましたが、サプライチェーン全体の最適化に対する抜本的な施策は遅れています。

 

③属人的・労働集約による非効率:

先で述べた通り、人手不足にも関わらず、貿易・物流業界の働き方は、属人的且つ労働集約的である側面が強いです。例えばコロナ禍の状況において、ハンコの捺印や文書対応などにより、出社を余儀なくされるケースも多いです。貿易プロセスやサプライチェーンマネジメントが、文書による情報共有・コミュニケーションが前提・慣習になっており、結果として輸出入プロセスが非効率になり、働き方改革への対応やリモートワークへの対応も後手に回っています。例えば、日本の貿易環境ランキングは、グローバルに見ても決して競争力のある状況ではありません。

<Trading Across Borders Rank:貿易に関わるビジネス環境ランク>

 

また、国内での全産業平均に比して、卸売・小売業、物流業界の労働生産性は低く、他産業に比して効率的に収益の上がる体制構築までに至っていません。

参考:公共財団法人 日本生産性本部 労働生産性データベース(JAMP)より
主要産業の名目労働生産性(就業者1人あたり、年間ベース)

日本の国際競争力の更なる向上、国内経済活動への更なる貢献、より一人一人が働きやすい環境の整備などの観点から、引き続きより効率的・効果なサプライチェーン設計、商流・物流の追求が必要です。

 

3. 解決策となるポイント

では、効率的で柔軟性の高いサプライチェーンは何を意識して目指して行く必要があるのか、考察していきます。

 

①可視化

まず、自社のサプライチェーン改善を実現するための取組として、商流とサプライチェーンの可視化はとても重要なポイントです。意思決定者が状況を正しく理解し、迅速に意思決定を下し、サプライチェーンマネジメントしていくためには、End to Endの情報を網羅的に且つリアルタイムで把握する必要があります。可視化しないことには、正しいミクロの市場分析もできず、需要予測もできず、生産予測もできず、在庫予測もできず、意思決定者は正しい判断ができなくなってしまいます。結果として、顧客のニーズにタイムリーに応えられず、売り上げの機会を損失したり、顧客満足度が低下したり、過剰在庫が発生したり、業務に無駄が発生するなど、ビジネスに対しての大きなネガティブインパクトを与えてしまいます。可視化の第一歩としては、各業務プロセスを組織内外で明確に定義し共通認識を持つこと、KPIを策定し、その責任と権限を明確にする必要があります。また、IT施策の強化、投資強化も重要です。

 

②標準化

サプライチェーンオペレーションの標準化に向けた取組も重要です。日本ではサプライチェーンは、あくまでの日々のオペレーションの一環と捉えられ、経営にレバレッジの効く役割だと認知されていないケースが多いです。若しくは認知していても可視化が進んでおらず効果的なアクションを行使できていない場合もあります。組織にセクショナリズムが存在し、縦割りで風通しが悪く、責任や権限の所在も不明確、業務プロセスが分断され、使用している管理ツールもバラバラ、横断的な取組が困難であるケースが多いです。そのため、企業としてサプライチェーンの経験値も高まりにくく、ノウハウが貯まらず、知見も向上しにくく、人材も育ち難い環境にあります。担当者間の調整や現場の気合いに大きく依存したオペレーションで何とか回すケースもあります。標準化の大事な取組としては、業務の属人化、ブラックボックス化を徹底的に排除し、業務プロセスやデータを徹底的に可視化し、各プロセス内容を明確にし、規格を統一する必要があります。

 

③連携

商流のモノ、カネ、情報を効率良く流すためにも、ステークホルダーとシームレスに連携することが重要です。サプライチェーンは川上ではサプライヤー、卸売業者、フォワーダー、川下では販売代理店、卸売業者、物流事業者、小売店、自社内では商品開発、調達、生産、物流、営業、コーポレートの各部門など様々な関係当事者がいます。各プレイヤーが思い思いに行動すると、統制が効かずサプライチェーン全体の効率性や柔軟性が大きく低下します。現在のグローバルサプライチェーンの構造は非常に複雑化しています。以前のサプライチェーンの構造はもう少しシンプルで、子会社や関係会社、社外関係社も長期的取引を前提としており当事者も限られていました。しかし、安定供給、コスト削減、リードタイム短縮の観点から徐々にサプライチェーンのグローバル化が進み、複数国の工場での連携、稼働の分配の細分化、外部企業への委託、調達先の変更、配送先の変更などアメーバー式に様々な関係者との関わりが発生し、複雑化しています。各プレイヤーとの効率的に連携なしではサプライチェーンが成立せず、商流や物流が止まってしまう事態にもなりかねません。正しく連携するためには、可視化と標準化が必要な要素となります。

 

4. まとめと今後のレポートについて

 

日本のサプライチェーン戦略はもう少し経営に近い位置付けに置かれるべきだと思います。その様な意識が薄い企業だとサプライチェーンに関する取り組みは各々の現場任せになり、個別最適を重視した取組にならざるを得ず、上述で述べた可視化、標準化、連携が実現叶わず頓挫するケースが多いです。トップダウン、ボトムアップ双方でのアプローチが必要です。

 

また、サプライチェーンの分野には様々なテクノロジーが応用可能であり、有効活用は必要不可欠であると考えます。しかしながら大事なことは可視化、標準化、連携に対する意識が関係当事者内で十分に浸透した状態で、例えばIoT、AI、ブロックチェーン、RPAなどの検討をする必要があります。「テクノロジー導入はあくまでも手段であり、目的ではない。」その意識が不十分だと折角のテクノロジーの効果が限定的になってしまいます。

 

次回以降は、柔軟で効率的な貿易やサプライチェーン設計に必要な可視化、標準化、連携に関して、テクノロジーやトレンドなども加味した様々な観点から、貿易やサプライチェーンのデジタルトランスフォーメーションに変革して行くための必要な要素について焦点を当てて定期的にレポーティングしていこうと思います。

 

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Reference

World Bank, Doing Business, Trading Across Borders
https://www.jpc-net.jp/research/rd/db/

公共財団法人 日本生産性本部 労働生産性データベース(JAMP)
https://www.jpc-net.jp/research/rd/db/

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