長年、調達・購買領域はアナログな業務管理が行われ、DXが遅々として進んでいませんでした。近年、コスト削減や調達改革の重要性が見直され、調達・購買DXへの注目はにわかに進みましたが、システム導入をしたにも関わらず活用率が低いことが問題になっています。適切に活用されるシステムを設計し構築していくことが、日本の調達の改善につながると考えられます。
Shippioは2023年7月28日に、アナログな見積・購買プロセスをデジタル化するサービスを提供する株式会社Leaner Technologies(以下、Leaner)と、「データを用いた調達購買の最適化、安定輸送とコスト削減の実現」と題して共催セミナーを行い、システムの紹介から、質疑応答、調達のDX(※1)などについて議論を交わしました。
※1 デジタルトランスフォーメーション
登壇者
山下 翔平 /株式会社Leaner Technologies
新卒で日産自動車の経営企画部門に入社。
国内市場の販管費を統括する役員直轄の部署で、市場分析や販売予測のレポート作成、部内の業務効率化などに従事。
その後セールステック系SaaS企業を経て、2020年8月に株式会社Leaner Technologiesにジョイン。
インサイドセールス部門の立ち上げと責任者を担当しながら、マーケティング・調達・購買部門に関連する市場調査に従事。
現在はエンタープライズ向けの営業チームのマネージャーを担当。
竹原 功将 /株式会社Shippio Sales Manager
みずほ銀行にて法人新規営業に従事し、若手優秀賞を複数回受賞。SMBマーケットにおける新規獲得で年間1位を記録。その後、ベガコーポレーション(グロース上場・家具EC)にて、経営企画やSCM戦略部の責任者として、サプライチェーンに関わる戦略立案・実行・オペレーション管理に従事。サプライチェーン全体の改善活動に従事し、半年で7,000万円以上のコスト削減を実現。管轄領域は国際物流から国内保管、国内配送まで多岐にわたる。 freee株式会社では、カスタマーサクセスやアライアンスの企画立案・運営・パートナー営業などに従事。現在は、株式会社Shippioにて事業会社向けのセールスマネージャーに従事。
調達のスタンダードを刷新し続けるLeaner
すべての企業はモノ・サービスを「調達」することで事業を運営しています。企業にとって「調達」は不可欠で、重要な活動です。しかしほとんどの日本企業が、メールやExcel、FAXや電話を中心としたアナログな方法で、サプライヤーとの見積もり取得や交渉などの調達・購買実務を行っています。
Leanerはこうした実務プロセスを変革し、日本の調達・購買をより良くしていくプロセス改善に尽力しています。
調達DXを成功させる大切なステップ
コスト削減や調達改革を進める上で、まず業務プロセスをデジタル化することが重要です。従来はサプライヤーからの見積り取得を、メールやExcelで行っていましたが、これをシステム上で行うことで業務プロセスをデジタル化します。デジタル化することで、見積り価格や交渉背景、結果など、調達に関するデータが蓄積されます。データが蓄積されれば、それを活用した戦略的な活動が可能となります。
調達DXにおける現状の問題点
ソーシングとパーチェシング領域に区分した場合、パーチェシング領域には比較的システムが導入されやすい傾向にあります。実際に、購買管理システムや発注システム、EDI(電子データ交換)などを、多くの企業が導入していると思います。
一方でソーシング領域に関しては、あまりシステム化されていない現状があります。しかしコストの適正化という観点から見ると、データの蓄積・分析はとても重要です。そのため、ソーシング領域のシステム化が非常に重要だと考えています。
ソーシング領域のシステム化とデータの蓄積
ソーシング領域のデータの蓄積は、大きく3つの項目に分けられます。
一つ目は、仕入先選定に必要なデータです。要求仕様に対する見積もりや、サプライヤーの強み・弱み、製品加工のコストテーブルなど、基本的な情報が含まれます。また、交渉による価格結果や経緯・履歴も重要です。
二つ目は、購買部門の評価改善に必要なデータです。具体的には、購買部門がコストダウンやコストアップの抑制であげた成果情報が含まれます。購買部門が関わることで実現されるコストダウンやコストアップの成果を、具体的な数字として示すことで、部門の存在価値を証明し、経営に貢献することができます。
最後に、購買部門が関与していない部門のデータです。例えば、設計開発部門が試作の見積もりを担当している場合や、生産技術部門が設備を購入している場合などが該当します。これらの部門が購買部門との連携なく進行している場合、コスト削減の余地や改善点を見逃してしまう可能性があります。
ここで重要なのは、このデータを現場の負荷をかけずに集めることです。データを効率的に蓄積するためには、システムを上手く使い、現行の業務フローをこなしていれば自然とデータが溜まる体制を作ることが非常に重要です。
Leanerのサービス
Lenerには、2つのサービスがあります。
主力サービスは、仕入先選定のプロセスをデジタル化し、データ活用を促進する「Leaner見積」です。バイヤーの勘・経験・努力など交渉履歴をデータとして蓄積し、組織の集合知に変え、ソーシングの高度化を実現します。また、業務の標準化を支援する役割も果たしています。
もう一つのサービスは、多様な取引先からの購買プロセスを一元化できる購買プラットフォーム「Leaner購買」です。間接資材やMRO品(※2)など発注点数が非常に多く、かつ見積もりを取らない消耗品をターゲットにしたサービスです。ウェブサイト上で複数の供給業者の商品を集約し、B to B向けの価格比較サイトのような仕様になっており、利用者が簡単に商品を検索し、発注できる仕組みとなっています。
※2 メンテナンス(maintenance)、リペア(repair)、オペレーション(operations)に必要な備品や消耗品をいう
調達物流の可視化を推し進めるShippio
Shippioは日本初のデジタルフォワーダーとして、国際物流に関わる様々なサービス提供と、サプライチェーンの可視化、一元管理をデジタルの力でサポートしています。
第一種と第二種の貨物利用運送事業者の免許を取得しており、いわゆるフォワーダー(海運貨物取扱業者)の会社です。Shippioの最大の特徴は、デジタル領域です。ワンストップで見積もりや発注、納期調整が行えるクラウドシステムを提供し、業務の効率化だけでなく、サプライチェーンの可視化やデータ活用も提供しています。
Shippioのサービス
Shippioは、デジタルフォワーディングとAny Cargoの2つのサービスを展開しています。デジタルフォワーディングは、物流手配等をするフォワーディングサービスと、クラウドシステムを提供しています。Any Cargoは、Shippioのクラウドシステムのみを提供するサービスです。
どちらのサービスも併用可能で、Shippioのクラウドシステムで管理することができます。つまり同システム内で月に100件の輸入が発生する場合、そのうち20件をデジタルフォワーディング、80件をAny Cargoと一元管理が可能になります。
調達におけるポイント
調達する上で、2つのポイントがあると思っています。一つ目は、「どこの調達先から、何をいつ調達するか」という点。二つ目は、調達で発注したモノが「何がどこにいつ届くか」という点です。この2点をしっかりと管理できないと、調達・購買が成立しないと考えています。
「何をいつ調達するか」という点は、在庫コントロールに紐づきます。また、「何がどこにいつ届くのか」は、安定輸送に関わります。これらをシステムを使ってしっかりとコントロールすることで、調達における国際物流のコスト削減ができると考えています。
在庫コントロールは、コロナ前はジャストインタイムの考え方が主流で、在庫を持つことを悪とされる傾向がありました。しかしアフターコロナとなり、モノが作れず売れない機会損失を避けるため、安全在庫の積み重ねが重要となりました。そして現在は、足元の増えた在庫を減らしていくと同時に、今後コロナ同様のパンデミックが発生した場合に、在庫の増減を柔軟に行える必要があると考えています。これにより、求められるサプライチェーンも変わりました。
ジャストインタイムの場合は、計画通りに適切な在庫を調達することが重要でした。一方で、安全在庫を積み増す場合は、保管場所や調達先の分散への考慮が必要でした。現在は、計画や分散だけでなく、在庫の可視化も非常に重要だと思っています。
Shippioが調達領域でできること
在庫コントロールは、発注点の管理が重要になります。販売予測や利用予測、生産のリードタイム、輸送のリードタイムのすべてが結びつくことで、発注点の管理が可能となります。Shippioのクラウドサービスを使用すると、過去の豊富な輸送データをシステム内に保持することが可能です。それを基に輸送データの分析を行い、ルートやキャリア別、トランシップの有無など、すべての輸送に関する日数情報を把握することができます。輸送データの活用を推進し、適切なタイミングでの発注を実現することができます。
安定輸送は、発注したモノが指定した場所に納期通りに届く管理が重要です。リアルタイムな輸送状況を把握するための手段は多様です。特に、海外から船を使った輸送状況の確認は、メールや電話でフォワーダーに確認するか、船社のホームページを確認し、その情報をExcelに記載して日々更新することが一般的です。Shippioでは1日2回の自動更新トラッキングを行うので、本船動静の確認は不要となります。また、輸送ルートでの絞り込みも可能なので、リアルタイムに輸送状況を把握することができます。
どのような課題を持っている企業が多い?
山下:ほとんどの人がメールで見積依頼を送り、PDFで見積書を回収し、ご自身で比較表をExcelで作成し社内承認をもらう、アナログ業務という課題をお持ちだと思います。しかし、アナログ業務になっていることだけが問題ではなく、アナログゆえに属人化してしまう点も課題だと思っています。
40後半〜50代のベテラン層である購買担当者がいなくなった時に、業務回らなくなりそうな企業はたくさんあると思っています。購買に関する情報が属人化し、共有されていないことだけでなく、長年の購買情報が蓄積されていないことも非常に心配していることの一つです。
竹原:貿易の業務に関しても、属人化は起きています。やはりExcelで案件を管理しており、担当者が退職してしまうと使い方が分からないという話はよく聞きます。さらに、輸送日数の見立ても経験と勘に頼るケースが多く、発注時も「昨年はこのぐらいだったので多分こうだよね」と感覚で発注してるケースが多いように思っています。
最近よくご相談を受ける課題は、積み上がった安全在庫をいかに減らしていくのか、という課題が多い印象です。
今までシステム化が進まなかった背景は?
山下:そもそも調達・購買領域のクラウドサービスやSaaSなど、新しい仕組みがなかったことが背景の一つだと考えます。次に、購買部に対してシステム投資する企業が少なかったことが挙げられると思います。
竹原:リプレイス前は、Excelやメールなどのツールがほとんどでした。これは個人的な意見ですが、おそらく今まではそれで問題なく業務が回っていたのでシステム投資されなかったというのが正しい表現だと思っています。それがこの2〜3年で、コロナの影響で課題が浮彫となった。ただ新しい仕組みがなかったので、短期的に残業するなど人でカバーしてきていたが、もう限界を迎えているのでソリューションに注目が集まってきたのではないかと思っています。
システム導入を提案する中で、工夫していることは?
竹原:業務の効率化だけでなく、システムを使って実現できる効率化以外のメリットを訴求します。例えば、データを活用してコストを削減したり、船会社と交渉する材料を揃えたり、あるいは業務の標準化やBCP対策など、複合的なメリットをお客様と一緒に目線を合わせながら探っていきます。
よくShippio社内では「6象限で効果を出す」と表現していますが、貿易実務の効率化と効率化以外のメリット、さらに効率化して生まれた時間を何に投資するか、これが貿易実務だけでなく他部署も入れると大きく6つになります。それに対して、Shippioのシステムの費用対効果をディスカッションしていくケースが多いです。
山下:よく業務効率化を目的に置いてしまう場合がありますが、業務効率化はあくまでも過程です。業務効率化をして生まれた時間で何をするのかが、本来の目的です。業務効率化を目的にすると、経営層は効率化したので人数を減らしていいよねとなり、本末転倒になりかねません。効率化した副次的な効果として工数削減を数字で出すのは大事ですが、本来の目的のためにシステムを入れて時間を作る、あるいは情報を蓄積するなどの提案を持っていかないと、経営層は納得しづらい。導入の目的をどこに置くかが非常に重要だと思います。
DXが成功する組織の共通点は?
山下:検討に時間をかけないことです。クラウドサービスは導入して初めて成果が出るものですから、導入してみないと何も分からない。DXの観点で成功しやすいのは、「試してみて成功か失敗か判断しよう」という考え方の方が、結果うまくいく印象です。
今は、世の中の状況も刻一刻と変化しています。5年前にコロナの予想はできなかったわけですから、なるべく検討期間を短く導入して判断する。そうした方がうまくいっています。
竹原:やはり早く試すことは、とても重要なポイントだと思っています。開発の優先順位は、お客様の声だと考えています。当然、使ってくださっているお客さまと、検討しているお客さまでは違ってきます。
また、クラウドサービスはシステムの要件定義が全く必要ないので、導入まで1ヵ月かかりません。「一緒にシステムを育てていく」感覚で、まずは導入して試してくださっている企業が、DXに成功している印象です。
Shippioでは調達物流の可視化を実現し、情報共有機能や、貿易書類・請求書管理、納期調整を一元管理できるクラウドサービスを提供し、貿易業務の可視化・効率化をサポートしております。
貿易業務で人手が不足している、現状のやり方ではDXが進まないなどのお悩みがございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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